対談今回のプロジェクトはどんなものだったのか。完成した「さくらの家」で、レビック新金岡の日根野さんと、団地不動産代表・建築家の吉永さんにお話を伺いました。

地域のために、団地の空室を 減らしていきたいんです。

−そもそも、なぜこのプロジェクトをはじめたのですか?

日根野:レビック新金岡は地域に根付いた不動産会社として営業しています。地域のことをいろいろと考える中で、地域が活性化するために出来ることを考えるようになってきました。新金岡には団地が多いので、ここに空室が多くなってしまうと地域に元気がなくなる。なので、団地に若い人が来て、暮らしやすい場所にするのが第一と考えました。

最近、若い人のなかにもアンティークなものにこだわって、古いものの命を吹き返すことに喜びを感じる価値観を持った人が増えているように思うんです。そういう方にマッチする住まい方を、こちらから提案すればいいんじゃないかと考えました。例えば、最近はTVドラマでも、ハウスメーカーが建てたような家に住んでないんですよ。

吉永:確かに!ロフトがあるアパートに住んでるとか、古い味のある建物に住んでいたりとかしますね。

日根野:豪勢なマンションに主人公が住むようなドラマは、もう流行らないと思います。今までのリフォームは、とにかく綺麗に壁紙を貼り直して、それなりに流行りのもの、安く仕上がる集成材を使ってピカピカにして、結局10年後には「なんやこれ」と飽きてしまうものだったと思います。団地が出来た頃の時代に合わせた、無垢でシンプルなものを作って、100人に受けなくても1,2人わかってくれるひとがいたらいいな、と思ったのがはじまりです。

次から次へと新しいものの競争をするよりも、いつの時代にも耐えうるものにしたいと考えました。

新金岡団地は非常に質のいい団地です
−依頼を受けてどのように考えましたか?

DSCF3344吉永:新金岡団地は、とても歴史ある場所で、場所が便利、買い物が便利で、緑がたくさんあって、車と歩行者の関係もきちんと考えられている非常に質のいい団地です。 昔から住んでいる方も多く、賃貸から分譲に移る人も入るくらいの場所。その良さを活かしてアピールできるようなものにしたほうがいいだろうと考えました。

今回は、PR活動についても関わらせてもらったので、とりあえずたくさんチラシを撒こうというのではなくて、僕たちが住んでもらいたい人、この団地に住みたいと思ってもらえるような人に向けてアピールするようなやり方を試すことが出来ました。  作ることと、広めていくこと、その両方が出来る企画になったので、とても嬉しかったです。それと、こういう不動産屋が世の中にいるんだ、と知れたのもよかったです(笑)。

日根野:(笑)。今回、オープンハウスの反響はとても大きかったです。チラシの出来栄えがよかったこともあって、来訪者が100組を超えています。普通はせいぜい30~40組。団地のリノベーションでこれだけ来ることはまずないんです。近くに住んでいる人は当然来るんだけど、今回は遠方から来る人もあった。

このプロジェクトをやったことで、レビック新金岡の認知度も上がったし、「ほかと違うやり方でリノベーションをしている」ということも知ってもらえたのではないかと。

−完成したこの部屋はどうですか?

吉永:団地好きにはとても好印象でした。古い団地に住みたいという気持ちはあるけど、住みづらいのは困る、という人にとっては「こういうのがほしかった」というものになったのではないかと。個人的にも、これまでたくさんの団地を見てきて「こうすればいいんじゃないか」というのが、全部実現できたと思っています。

日根野:今購入を検討している方で、他のリフォームされた物件を見せても「やっぱりここがいい」といってくださるお客さまもいるんです。目が肥えているので、ものの良さはちゃんと分かってくださいます。天井の高さを上げているので、同じ広さでも解放感があるとか、床材にいいものをつかっているのも気に入ったようで。ただ、5階なのが気にかかる、と。

吉永:階数のハンデを越える魅力が伝えられればいいんですけどね。前から思っていたことなのですが、世の中には「団地に住みたい」だけではなく、潜在的に「団地に住んだ方が幸せになる」人がいるのだろうと思います。「通勤に便利」と「緑に囲まれたところ」はどちらかを選ぶのではなく、両立も可能なのですが、一般の賃貸住宅だと、どうしてもどちらかを選ばなくてはいけない。そして、選ばなかった方を我慢して住んでいるのでしょう。そういった人たちに団地の良さをアピールすることが出来れば、それは社会的に意義のあることだし、空き室を減らすことにもつながると思います。

まだ、出会えていない お客さまがいる。

SANYO DIGITAL CAMERA日根野:今後もこのリペアプロジェクトを続けていきたいと考えています。この2棟を足がかりにして、「レビックのブランド」を確立したいんです。最初は「若い人」がターゲットだと思っていたんですが、実際に来てくださった中には年配の方も多かったし、こういった感性を持った層に届くような営業活動もしていきたいです。

賃貸として作ってもいいし、それを支えるオーナーを見つけるのもアリだと思います。修繕がしやすい建材を選んでいるので、賃貸物件としても扱いやすくなってると思うんですよね。「地域を活性化するため、空家を無くしていきたい」という根元にある考え方は、変えずに続けていきたいです。

吉永:ある程度の数を揃えないと、やっていることが伝わりにくいかもしれません。今はまだ「特殊例」として捉えられてしまうかも知れませんが、積み重ねていく中で「これはいいものだ」と思う層が見えてくるだろうと思います。お客さまの意見を聞きながらリペアする方法もあるでしょうし。「団地近くにある不動産屋のビジネスモデル」が作れるのではないかと思いますね。

日根野:私は不動産を扱う仕事に携わるものとして、売るまでの過程と、売ったあとのことをしっかり考えていくことが必要だと考えています。とくに団地のように長いスパンで建てられているものを扱うのであれば、より一層そうあるべきだと思います。(了)


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日根野正昭/レビック新金岡 ホームプロデューサー

グループ会社の住宅設備建材販売会社にて約18年、住宅建築の部門で約2年活躍。その後、レビック新金岡にて不動産流通業へ。店舗は新金岡団地の中央に位置し、地域に密着したサービスをと、団地リノベーションに力を入れている。

 

yoshinaga吉永健一/団地不動産・吉永建築デザインスタジオ

大阪工業大学、東京工業大学大学院にて意匠設計を学ぶ。 卒業後長谷川逸子・建築計画工房で勤務。31歳で独立開業。戸建て住宅、店舗、デイケアセンターなどの設計に取り組み、現在、団地リノベーションを手がける。