「大量生産の工業製品は、個性のないありふれたもの」というのが、一般的な考え方かもしれません。しかし、こういった製品は、いったん廃番になると二度と手に入らなくなります。改装前のしんかな団地には、今見てもデザイン的に優れている貴重なアイテムがたくさん残されていました。美しい模様の型板ガラス、ユニークな表示のトイレ錠、丸くかわいらしい照明など、この団地でしか出会えないものばかり。傷みが少ないものは雰囲気ごと、できるだけ残しました。
浴室の敷居は、砕いた石を色をつけたモルタルで固め、表面を丹念に磨き石の模様を浮かび上がらせる「ジントギ」で作られています。 若狭塗り箸のような職人技が光る手法ですが、手間がかかることから住宅で使われることはほとんど無くなり、施工できる職人も少なくなってしまいました。この貴重な敷居を、クリーニングしてそのまま活かしました。
型板ガラス
昔の型板ガラスはデザインがとてもユニークでした。そのほとんどは現在生産されておらず今やデッドストックとなっています。そんな貴重なガラスがこの団地には残されていました。光の入り方が独特の型板ガラス。向こうの風景がモザイクのようにゆらゆらと映ります。ガラスを入れ替える必要がある場所も、雰囲気を揃えました。
木の壁
「さくらの家」玄関の壁には木が使われていました。小分けの板材になっていますが、木目を見るともとは一枚の板から取った壁であることがわかります。玄関にふさわしい風格を与えるための設えでしょう。数十年を経てより味わい深くなったこの壁をそのまま残しました。
大きな収納
団地の収納は昔ながらの押入れサイズ。奥行きがたっぷりあるので大きなものでも入ります。襖は簡単にはずせるので部屋の一部として使うこともできます。「深さがあってつかいにくい」と思われがちなこの収納もそのまま残しました。使い方はあなた次第!
浴室の木製扉
浴室扉はなんと木製。水がかかって傷みやすい場所なので、アルミサッシに取り換えられていることが多いのですが、何度もペンキを塗り直して40年近く使い続けられていました。せっかくですので、そのまま手入れをして使い続けることにしました。
ピクト錠
かわいい入室表示付きトイレの取っ手はどうしても残したかったアイテムのひとつ。壊れた表示窓を修理して再利用しました。