団地って言葉の響きが、分相応な感じがして好きです
今回の住み団さんは京都府長岡京市、竹の台団地にお住まいの園山さんです。デザイナーである園山さんは、子どもの頃からお住まいの部屋をリノベーションして、自宅兼事務所として使っています。大きな窓から緑が飛び込んでくるステキなオフィスにて、竹の台団地とその住み心地、リノベーションについてお話をうかがいました。(2012年9月収録)
園山邸リノベーションについて
(インタビュアー・編集:狩野哲也 | 狩野哲也事務所)
ご自宅をリノベーションしたきっかけはなんですか?
この団地ができた時に家族で移り住んで来たので、築41年が経ちます。兄が出て、父親が亡くなって、7年前から僕はひとりで住んでいました。7年前に会社を辞めて、フリーとして独立するために家を拠点にしようと思ったのがきっかけです。
家族で住んでいた時のままで何も手入れせずに仕事をしていたのですが、それなりに仕事が軌道に乗り始めた時に「京都で仕事をしています」というと、みんな京都に来たがるんです(笑)。しかたなく、駅直結のホテルのロビーなんかで打合せしていました。そうこうしてるうちに、打ち合わせに試作品を使う案件があって、外ではちょっとまずいと言うことで、うちにご足労いただいたことがありまして。
前もって「家ですからね」と伝えておいたので「あれ?」と思われる事にはならなかったんですが、「ツレの家に遊びきたみたいな感じ」と言われたんです。まあ、それは良い意味で言われたんですけどね。
外ではなく家だと、普段はしない込み入った話や、デザインの重要な話がいっぱいできることは、クリ工イターである自分にとって必要だなと思いました。今まで「家なので来ないで」と言っていたのはまずいんちゃうか、と。それで、せめて応接コーナーだけでもリフォームしようと思ったのです。
依頼の経緯と決め手はなんですか?
暇な時に自分で改装しようかと考えていました。ある時吉永さんと出会って、面白いことを考えている人だと思ったんです。建築系の人なんだけど、暮らしと人との関わり合いのバランスとかが自分の考え方に近い人だった。空間を面白おかしくだけど機能的に考えている。建築家にありがちな「どやーっ!」って匂いがしない。この人だったら頼めるかなと思ったんです。
最初は仕事エリアだけをリフォームしようと相談しました。すると「一度手を入れてからだと、他の部分のリフォームがやりにくくなりますよ」と、アドバイスをいただいて。
元は絵に描いたような、昭和の団地の間取りだったんですね。長く住んでいるので慣れているけど、ものすごく無駄なスペースがあったりして。それはなんとかしたいですねと、吉永さんと話していました。
どんな希望を伝えられたのですか?
設計の途中で、いろいろリクエストしました。
・山が近いので風が通るようにしてほしい。
・ぐるりと回れる動線は大事にしたい。…これらが最大の条件
・畳に布団を敷いて寝たい。
三つ目のリクエストに、畳の部屋の床下をぐっとあげて収納にすれば良いと提案されて、「それはナイスだー」と思いました(笑)。完全四畳の部屋で寝室っぽくない上、へりに座ることができます。純和風にするつもりはないけれど、和風建築のフレキシビリティの高さは好きだなと思って、吉永さんとそんな話をしました。工事中は毎日こっそり写真を撮っていました(笑)。
春夏秋冬、暮らしてみてのご感想をお聞かせください。
壁材をどうするか、というのが一番大きなポイントで、「吸湿性が高い材料・チャフウォール」をご提案いただきました。ホタテの貝殻を加工生成した石灰で、湿度調整に強く、思いのほか梅雨時と冬場にいい感じです。梅雨晴れのじとっとした感じはなくなったと思います。冬は乾燥しますので加湿器を回すのですが、言うほど窓に結露がない。
リフォーム前は、窓がピッチョリ、窓の下がベトベトだつたけどそれがない。春秋は風通しが良いので、花粉さえ我慢すれば開けておいて問題なし。内塗装だけで湿度がこんなに変わるのかと思いました。7月いっぱいまで一回もクーラーをつけなかったですね。
ご自宅に遊びにきてくれた方はどんな反応ですか?
遊びに来る人が増えました。東京で打合せしていて、半分冗談で「次は京都で打合せしましょう」と言ったら、何人ぐらい入れますかねって言われまして。「7人くらいですかね?」と言ったら7人で来られて(笑)。半日、打合せと称しておやつを広げながらフリーミーティングしていました。
家だと会社の会議室でできない話をしてくれるんです。それは仕事上の愚痴だったりいろいろですが、ここで和んでもらうのだったらそれもいいかなと思うんです。家が人づき合いの円滑化に役立っているならうれしいんです。
情報工学系の先生がここに来て、ひとりずつ生徒がプレゼンするミニセミナーをすることや、学校の先生が4、5人集まってプロジェクトを立ち上げる密談をすることもあります。
こういったミーティングの時にいろいろ文字を書いたりするために、おしゃれなテーブルではなくて、技術家庭の工作台みたいなのが欲しいと吉永さんに依頼しました。インクとかがこぼれてもかまわないようなイメージですね。
私の仕事のべースは、プロダクトデザインです。丸を描いて線でつないだり、紙の上に書いて確認する作業が必要です。膝の上にノートパソコンがあれば、どこでも仕事ができるというタイプの人間じゃないのですよ。人との関わりをデザインしているんだから、仮想空間だけで終われないだろうと思うんです。
住む前と、住んでからで変わったことはありますか?
掃除をちゃんとするようになりました(笑)。今までの間取りだと、生活の動線的に長く入らない部屋がどうしてもあって。半年ぐらい掃除機が入らないこともありました。西部劇みたいな挨がコロコロと回りはじめたら掃除しようと思ってました(笑)。今は、お客さんが来るから掃除しなきゃという感覚です。
猫のカンナちゃんはいつやってきたんですか?
去年の暮れです。野良で迷っているところを拾ってしまったんです。こいつが来てから別の掃除をしなきゃいけなくなりましたね。
もともと、床をどうするかと相談している時に、吉永さんから「コルク材はどうでしょう?」とご提案がありました。木の板よりも復元力が高く、長い目でみたらコルクの方がが良いということでした。
衝撃吸収製が木よりも良いそうです。フローリングの家にずっと住んでいる友だちが、家に来たときに素足でずっと過ごしても足の裏が痛くならないと言うんですよ。
団地の規約に防音基準があって、一般的なフローリングはダメだったんですね。
そうなんです。なので、これがいいねって事にしたら、猫が来て走り回っているわけです。ツメのある獣が走り回っていても傷になりにくい。吉永さんに予言されていたのかと思いますね(笑)。
あと、電源がいっぱい欲しいとリクエストしました。床にコンセントがあるんですが、作業台にコードが通るように工夫してもらいました。そうすると、カンナがここに手をかけてぶらさがりよるんです。棚もちょいと伸びをすればと届くので、遊んで良いおもちゃを置いてやったりとかしています。
これから部屋をリフォームする方に、なにかアドバイスをしていただけますか?
自分の仕事の進め方があって、こんな住居にしたいという想いと、リフォームしちゃってからこんな仕事の進め方をしようという想いの、両方を持っておいたほうがいいですよ、と提案します。どちらかにこだわると、たぶん破綻すると思うんですよ。
僕の場合、びっくりするぐらい前と生活が変わらないんです。なんかいい意味で変わらない。リフォームしたりすると何か変わった、と言いますが、変わることが本当にベストなのか?と思います。大事なところは変わらないけど、今まで我慢していたところが我慢しなくよくなる、とか、そういう意識をもつといいかもしれないですね。
かっこいい部屋に住んだら、かっこいい仕事ができるというわけがない。僕が自分の仕事のやり方を考えた時に、建築雑誌に紹介されているようなクリエイターの事務所を見ても、それじゃないと思ったんですよ。
シンプルで使いやすくて、サロン的にみんなが集まって、好き勝手にしゃべってもらえる場にしたかったのです。クライアントさんに足を運んでもらえるような場所にしたいとリクエストして、この部屋ができ上がったというわけです。
竹の台団地ってどんな団地?
(インタビュアー・編集:吉永健一)
団地での暮らしぶりについて
団地の周辺施設や環境は、たいへん充実していますね。
病院、学校、スーパー全部そろっています。唯一映画館がないのは残念です。緑もゆたかで、特に桜はすごいです。わが家のベランダからお花見ができますからね。
団地は子育てに向いていると言われますが、竹の台団地はどうですか?
団地敷地内では車がスピードを出せないので安全ですね。子どもの数が少ないので、お友だちが少ないのが残念なところですが、最近少しづつ増えているような気もします。
昭和40年代築の団地ですが、レトロ感を感じることはありますか?
レトロといえばレトロですけど、昭和の古い感じとは違うんですよね。むしろ補修をちゃんとしているので、単に古いということはないですね。
なんとも表現しがたい心地よさを団地不動産では「ネコ度」と呼んでいますが、点数高そうですね。
うちのネコが出て行かないので、気持ちがいいんでしょうね(笑)。
普段の団地の雰囲気を教えてください。
昔からの人と、日々のあいさつとか声を掛けたりするコミュニケーションが自然にあります。これだけの人数がいれば、トラブルがないわけではないけど、その度に管理組合や自治会できちんと対応する仕組みができているので安心ですよ。
ここは民間の団地ですけど、URの団地並みに建物や植栽をきちんと手入れされていて感心します。
定期メンテナンスをしているので、きれいです。個人経営のマンションで、鉄の階段がぼろぼろになっているのを見かけたりしますけど、そういうのはないです。手すりとか塗り替えてはいますけど、昔のままちゃんと使えていますからね。
なかなか空きが出ないというのがよくわかります。
団地内で引っ越す人もいるくらいですから、なかなか空きません。よく団地の現状として報道されるような、「限界集落」というイメージはこの団地にはないですね。
住んでわかる、団地の良さ
よく団地とマンションはどこか違うんですか、と聞かれますが園山さんはどう違うと思います?
物心ついた頃から、団地にしか住んだことがないのでよくわかりません(笑)。団地って言葉の響きが分相応な感じがして好きです。
最後に、団地に住もうか迷っている人に、ひとことお願いします。
何で住むことを躊躇するのかわからないんですけど、あなたが思っているデメリットはないです、と言えます。団地ってこうなんでしょう?と思っているデメリットは、おそらく他のマンションや、戸建てでも同じようにある問題だと思います。それでも迷うなら、団地が良い理由を探した方がいいです。
そうですね、団地まで連れて来ると「あぁいいですね」とわかってくれるますよね。見ないで団地はちょっと…という方が多いんですよ。
うちでも改装する前に連れてきたら、ほらねやっぱりとネガティブに思うでしょうけど、リノベーションした状態を見るとアリやなとも思うでしょう。
良さを知っているからこそ、この団地はなかなか空きが出ないのでしょう。
安いんだから住んでみたらいいんですよ。ラーメンも食べてみないとわからないのと同じで「えいや!」で行ってみるもよし、推進派反対派、両方いろんな意見を持つ人に聞いてみたらいいんです。なんやったら泊めてもらえばいい。イメージとして団地の人は泊めてくれそう(笑)。
ありがとうございました。
レーダーチャート
お話を伺ったのは、園山隆輔さん(51歳、自営業・デザイナー)
竹の台団地をレーダーチャートで評価していただきました。